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校長はブラジル人

 木曜日。

 ライブ嫌いなのに、ジョアン・ジルベルト公演に行ってきた。

1)年齢的に考えると最後の来日タイミングではないか(現在75歳)
2)前回の評判が良すぎた(ある人からは「なぜ行かないんだバカ!」と本気で罵られた)

 大きく分けてこの二つが理由である。

 しかも、なかなか踏ん切りがつかず、当日決心して、当日予約した(そんなこと初めてだ)。

 会場の有楽町の東京国際フォーラム A。一階席は満席で、二階席の S 席はガラガラ。おかげでゆったり座れる。ブライアン・ウィルソンを観たときとは大違いだ。開演時間(19時)に間に合うように駆けつけたものの、全然始まらない。

 というより、ジョアンは気難しくて有名なミュージシャンだ。突然キャンセルってのもあるかもしれないし、そもそも時間通り来るとは誰も思っていない。待たされる価値のあるものなので、誰も怒ったりはしない。みな思い思いに本読んだり、おしゃべりしたり……余裕あるなあ。年齢層はやっぱりかなり高め。

 19時が過ぎたあたりのアナウンス。「アーティストの到着が遅れております。もう少々お待ちください」……どよめき。ジョアンだからしょうがないな、というような雰囲気。

 19時40分のアナウンス「ただ今、ホテルを出たとの情報が入りました」……会場が笑いに満ちた。そうか、やっと出たか。勝手にホテルの部屋でひげを剃っているジョアンの姿を想像して、ちょっとおかしくなる。

 20時過ぎ、照明が落ちる。青いスポットにステージが照らされる中、拍手の中、身奇麗な老人が舞台ソデからギターを持って現れる。遠くてよくわからないが、まるで小さな学校の校長先生が挨拶に出てきたような感じ。

 椅子にストンと座った後、突然つぶやくように歌い始めた……あの声だ! 15~6年前から聴き続けているあの声が、実に複雑なギターの音色とともに、静まり返った会場に響き渡る。

 曲が終わると雪崩のような拍手。すぐにイントロ~終わるとまた拍手。といったような MC もなにもない素っ気無いステージだが、まったく飽きない。歌と、ソロも何もないギタープレイ。なのに、なぜこんなに飽きないのか。複雑なメロディーラインをあの声で訥々と歌いこなすのにも感動したが、やっぱりあのギターだ。聴いたこともない複雑なコードが次々と現れては変化し、舞い上がり、そして着地する。いや、そんなこ難しいことは考えなくてもとにかく繊細で優しい音の渦。

 ふと、目の前で聴いている音が、たった一人から紡ぎ出されているという当たり前の事実にハッとする。なんて豊かな音だろう。ここまで来ると、伴奏者なんて要らない。最良の料理は、そのまま食べればよい。無駄な付け合せは要らない。そういう感じに近い。

 実は、彼のレコードは結構持っているが、有名な曲しか覚えていない……「ソ・ダンソ・サンバ」「ディサフィナード」「シェガ・ヂ・サウダージ」そして、「ガロータ・ヂ・イパネマ」(個人的には、「ウェーブ」の開放感と「ドラリセ」の絶妙なリズムに感銘を受けた)。しかし、そんなことはもはや関係ない。ただ、ただ身をゆだねる。目を閉じる。それだけでいいじゃないか。

 「校長」は、左足をブラブラさせながら自由自在にギターを奏で、二度のアンコールに応え、途中で一度だけ間違い、そしてソデへ消えるたびに、律儀にペコリと頭を下げていた。

 周りを見てみると、みんな微笑んでいる……と思ったら、自分もいつの間にか笑っていた。

Photoこんな貼り紙が出ていたらしい。後で教えてもらいました

【スマイル度】 ★★★★★

◆本日の名盤……高校のとき、「ボサノヴァ」を百科事典で調べてから、天神のタワーレコードで『ゲッツ&ジルベルト』を買ったときのことは今でも覚えています。今まで聴いたことのないハーモニー、リズム……どれもが驚きでした。あれから僕はあなたのファンです、ジョアン。当時の妻ミウシャとのデュエットも美しい名曲「イザウラ」収録のジョアン・ジルベルト三月の水(1973)。 

三月の水

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コメント

素敵な張り紙!
よいお話聞かせていただきましたー。

投稿: mayumi | 2006.11.10 22:02

わぁぁ、すてきな方ですね!
ボンさまのこの文章を読んで、観に行きたくなりました。

投稿: room119 | 2006.11.11 16:13

うーーーーーむ(後悔)。

投稿: もとのじ | 2006.11.12 11:33

◆mayumiさま

>素敵な張り紙!
よいお話聞かせていただきましたー。

 いやいやホントもうなんというか伝説ですね。生ける伝説。月並みな言い方ですけれども。

◆room119さま

>わぁぁ、すてきな方ですね!
ボンさまのこの文章を読んで、観に行きたくなりました。
 
 私の拙い言葉なんぞおっつかないところにいるので、ぜひとも一度生で観られることをオススメいたします。

◆もとのじさま

>うーーーーーむ(後悔)。

 あ、やっぱり?

 いや、でも今さらながらカエターノ・ヴェローゾを観に行かなかったことを後悔しておりますよ。観たかったなあ~。

投稿: ボン亭 | 2006.11.13 11:25

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