三鷹駅23時
新宿からの帰り、三鷹駅から歩いていると、老婆とサラリーマンが話しているのが目に入った。
声の調子からすると、男=へべれけ、老婆=それをたしなめている様子。「近所のスナックで飲みすぎた知り合い」だと思い、通り過ぎて信号待ちしていたら、二人が追いついてきた。
老婆は、70ぐらいだろうか。夜なのにサングラス。男は、短髪に黒っぽいスーツ姿。喋り口調から判断するに、50代ぐらいだろうか。ロレツが回らないぐらいの酩酊ぶりだ。唯一の持ち物であるペットボトルの水をときどき落とすほどに酔っている。
信号が変わったら、二人は別々に歩き出した。なんだ知り合いじゃないのか。
男は、偶然同じ道へと向かっている。酔っ払いのスピードだから、追い抜くのも造作ない。しばらくすると、男は、ペットボトルを傍らの駐車場にぶん投げた。ペットボトルが転がる音がする。一瞬身構えた。が、敵意はなさそうだ。そもそもこちらを見ている気配はない。
そのまま歩き始める。男との距離がどんどん広がっていく。と、後ろで声がした。男がぶつぶつ悪態をついているようだ。
「……オガワ、この野郎! バカ野郎!」
酒席でイヤな目にでも遭ったのか。オガワと男との関係を推理する。反りの合わない同僚? 嫌味な上司? こんなに飲みすぎたんだから、行きつけの店の常連とか? そんなことを考えながら歩いていると、ひときわ大きな声で叫んだ。
「なんで…なんで死んじまうんだよ!」
男は泣いているようだった。嗚咽混じりの声。なんてこった。オガワは死んでいたのだ。
二人の関係はわからないが、オガワの死は、男を浴びるほどの酒へと向かわせた。親友だったのかもしれない。会ったこともないが、オガワの冥福を祈った。そして、それ以上、男について考えるのを止めた。
ちょうど、雨が降り始めた。男が行き倒れにならなきゃいいが、と思って振り返ると、すでに男の姿はなかった。
※後日、教科書に載っていた芥川の『蜜柑』みたいなシチュエーションだなと思った次第です
【哀愁度】 ★★★★★
◆本日の名盤……前々から気になっていた一枚。とつとつと歌い上げる星野源の声が、染みる。驚きの解釈! の名曲「スーダラ節」収録の星野源/平野太呂 『ばらばら(CD付) 』(2007)
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コメント
好きなタイプの短編小説。
のような話ですね。
投稿: もとのじ | 2008.03.24 14:36
俺、この1枚とギター1本あれば無人島で3か月くらい過ごせる自信があるよ。超名盤だと思うのです>ばらばら。
投稿: yumetaro | 2008.03.24 15:10
酒は人を救う。
だから何千年経っても酒があるんです。
この見た目50代のスーツの人のように、2月の私のように悲しむしかない人は、好きなだけ呑んで泣けばいいんです。ただ、酒そのものに答えや救いを求めちゃいけません。
飲んで、話して、泣いて、笑って。強く生きたいですね。
投稿: Heavenly | 2008.03.25 00:42
◆もとのじさま
「自分はあんなに泥酔できるほどに、他人のことを思っているか」と不安になりました。
◆夢さま
夢太郎くんの日記見て、「これは聴かないと!」と思ったのよ。そういう意味で、青柳拓次『たであい』もずっと気になっている。
◆Heavenly さま
君の方がマスターみたいだな! さすが言葉に重みがあるね。
投稿: ボン亭 | 2008.03.27 11:41