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2008年3月

三鷹駅23時

 新宿からの帰り、三鷹駅から歩いていると、老婆とサラリーマンが話しているのが目に入った。

 声の調子からすると、男=へべれけ、老婆=それをたしなめている様子。「近所のスナックで飲みすぎた知り合い」だと思い、通り過ぎて信号待ちしていたら、二人が追いついてきた。

 老婆は、70ぐらいだろうか。夜なのにサングラス。男は、短髪に黒っぽいスーツ姿。喋り口調から判断するに、50代ぐらいだろうか。ロレツが回らないぐらいの酩酊ぶりだ。唯一の持ち物であるペットボトルの水をときどき落とすほどに酔っている。

 信号が変わったら、二人は別々に歩き出した。なんだ知り合いじゃないのか。

 男は、偶然同じ道へと向かっている。酔っ払いのスピードだから、追い抜くのも造作ない。しばらくすると、男は、ペットボトルを傍らの駐車場にぶん投げた。ペットボトルが転がる音がする。一瞬身構えた。が、敵意はなさそうだ。そもそもこちらを見ている気配はない。

 そのまま歩き始める。男との距離がどんどん広がっていく。と、後ろで声がした。男がぶつぶつ悪態をついているようだ。

 「……オガワ、この野郎! バカ野郎!」

 酒席でイヤな目にでも遭ったのか。オガワと男との関係を推理する。反りの合わない同僚? 嫌味な上司? こんなに飲みすぎたんだから、行きつけの店の常連とか? そんなことを考えながら歩いていると、ひときわ大きな声で叫んだ。

 「なんで…なんで死んじまうんだよ!」

 男は泣いているようだった。嗚咽混じりの声。なんてこった。オガワは死んでいたのだ。

 二人の関係はわからないが、オガワの死は、男を浴びるほどの酒へと向かわせた。親友だったのかもしれない。会ったこともないが、オガワの冥福を祈った。そして、それ以上、男について考えるのを止めた。

 ちょうど、雨が降り始めた。男が行き倒れにならなきゃいいが、と思って振り返ると、すでに男の姿はなかった。

※後日、教科書に載っていた芥川の『蜜柑』みたいなシチュエーションだなと思った次第です

【哀愁度】 ★★★★★

◆本日の名盤……前々から気になっていた一枚。とつとつと歌い上げる星野源の声が、染みる。驚きの解釈! の名曲「スーダラ節」収録の星野源/平野太呂 ばらばら(CD付)(2007)

ばらばら(CD付)

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深夜1時の「ヘルプ!」

 会社の近く、神泉に『ランタン』という店がある。

 いつも外まで生演奏の音が聴こえてくるから、大方マニアのオッサン連中が集って演奏を楽しんでいる場所なんだろう、と思っていた。もちろん、そんなところに足を踏み入れるほど心臓は強くない。だから、今後も縁はないと思っていたのだが……。

 先日、同僚のジェイたちと飲んでいて、神泉に向かう途中、この店に入ってみようということになった。

 店内に入ると、予想通り、中はライブハウスだった。演奏をしているのは、仕事明けのサラリーマンと思しき四人組。曲はビートルズの「イット・ウォント・ビー・ロング」。一聴したところ、コーラス、ベース、リードギターは結構いい感じだ。ドラムはちょっとヨタっていて、リードボーカルも高音が微妙だが、まあそこは酔っ払いだからいいだろう。カラオケみたいなもんだ。

 客は、一人で曲に合わせて派手に首を前後に振るオッサンと、若い女性連れのオッサンと四人ほどのサラリーマングループ、おばさん二人連れ、だっただろうか。平日の終電間近にしてはなかなかの盛況ぶりだ。

 「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」を経て、「シー・ラヴズ・ユー」でバンドは終わり、SEもビートルズ。つまり、このライブハウスはビートルズマニアの巣窟だったのだ。

 客も一人減り、二人減り、結局自分たちだけになって、店員の人と話す。

 すると、奥からスケジュールを持ってきてくれた。そこには、

●ハウスバンドの出演する日
柳田ヒロ(!)バンドの出演する日
●プロのセッションデー
●素人のセッションデー
●素人のセッションデー(ビートルズ解散後の曲中心)

 というふうに月間スケジュールが書いてあった。「今日はたまたま素人のセッションデーで、さっきのバンドは全部お客さんですよ」とのこと。つまり、ここはフリーの雀荘みたいなもんで、ビートルズファンが夜な夜な集い、それぞれのパートでセッションをするという濃い店だったのである。 

 その店員さんがまたいい人で、「最後に、僕らもちょっと楽器を演奏するんですけど、ちょっとやってみてもいいですか?」と頼んだところすんなりオーケーしてくれた。

 店員さんはベース、ジェイはギター、私は……ドラムで「ヘルプ!」を演奏する。

 原曲のドラムなんて覚えてないから、ヨタヨタのドラムで、タブ譜がないと弾けないと言い張るジェイもヨタヨタで、ベースだけがしっかりとビートを刻み……結果、相当悲惨な音だったと思う。

 その一部始終を見ていた K 嬢によると「ジェイさんと●●さんが楽しそうにやっていたのがよかった」という微妙なコメントで慰めてくれた。それもそのはず、結構楽しかったです。はい。ちゃんと演奏してみたいです。

【リバプール度】 ★★★★★

◆本日の名盤……ビートルズはわりと聴いたし、持ってるぞと自負しておりましたが、『プリーズ・プリーズ・ミー』、『ア・ハード・デイズ・ナイト』、『ヘルプ!』、『イエロー・サブマリン』など重要な作品が抜けていて反省しました。こんなんじゃあの店の客には太刀打ちできずに、『ブルースブラザース』みたいに、ビール瓶が飛んできたりするかもしれない。。それにしても、自分の「ヘルプ!」の覚えてなさっぷりと言ったら……恥ずかしいわー。名曲「ヘルプ!」収録のビートルズ HELP! - 4人はアイドル(1965)

HELP! - 4人はアイドル

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